バイクインプレ日記

VTR250(1998)インプレ

MT-07を車検に出している間の代車。メーター読み85,000キロ、実際は10万キロオーバーの最初期型VTR。過走行車なのでその点を割り引いて読んでいただきたい。

 

 

乗ったシチュエーション

高速、市街地、峠すべて走った。夏なのでタイヤの温まりに問題なし。

 

ポジション 取り回し

最近のMTやCBなどの250ネイキッドと比べるとステップ位置がかなり高くて後退している。身長180cmだと正直やや窮屈。90年代後半までのホンダは割とこういう設定が多くて、CB400SF(NC31)なんかもライバルのXJRやZRXと比べるとかなりバックステップ気味だった。この個体はハンドルがノーマルより高めのものに交換されているんだけど、このステップ位置だとノーマルの方がバランスはいいかもしれない。ちなみにマイナーチェンジ以降は、この個体と同じくらいの高さのハンドルになっている。

ハンドル位置は前述したようにやや高めのハンドルバーに交換されているにも関わらず今時のバイクと比べるとやや遠め。そのため最近のバイクと比べるとフロントタイヤが遠いような印象を受ける。

シートはそこそこ腰があって荷重がかけやすいんだけど、足つきのためにサイドが落とされてて断面形状がカマボコみたいになってるので、長く乗るとちょっとお尻が痛い。ただあんまり前下がりになってないのは好印象。

タンクの形状は非常に良い。最近のバイクはタンクの幅が広くて、なおかつ手前に向かって絞り込まれているものが多く、普通に乗ると膝頭しかタンクに接しないものが多いのだが、このバイクは内腿全体がピタッとフィットする。おかげで上半身に無駄な力が入らないので疲れにくい。

 

足つき性は抜群で180cmで両足裏ベッタリ+膝がめちゃくちゃ曲がる。身長160cmあれば多分余裕だと思う。ちなみにモデルチェンジするたびに低くなっていて、さらにLD(ローダウン)モデルもあるので、足つきに不安がある人は年式が新しいものを購入するのがいい。

 

取り回しは車重が153kgしかないので軽いんだけど、Vツインエンジンは前後長が長く、マスの集中化という点では不利なのでMTやZに比べるとやや重い印象。

 

エンジン

10万キロ超えの過走行車なのでベストコンディションとは言い難いのだが、それでも低回転では粘りがあるし、高回転までよどみなく回るのはさすがだと思った。

ベースは1982年に登場したVT250FCのエンジン。それを大きな変更なく使っているのだが、1986年登場のVT250FGでは43馬力まで絞りだしたのを、VTRでは32馬力までデチューンしているので、かなり低中速でのトルクは太い。無理にパワーを絞り出さず低中速に余裕を持たせるという戦略はスズキのVストロームやGSXなどとも同じだが、スズキの方がもう少し軽く回る印象。その代わりVTRの方がVツインエンジンであるだけにパルス感はある。

90°Vツインエンジンは理論上1次振動がゼロなので常用域では振動はほとんどない。高回転まで回せばシート付近に微振動が出るが、その領域を使った走りをしてる時は多分ライダーもアドレナリンが出てるのであんまり気にならないはず。

40~60km/hでの心地よさを追求してセッティングされたエンジンということで、確かにその領域で走っている分には何の不満もないのだが、峠でちょっとペース上げ気味にするとエンジンというよりミッションに不満が出てくる。前モデルのゼルビスまでは6速だったのにVTRになってからは5速になってしまっているので、タイトなワインディングの上りなどでは2速だと低すぎるし3速だと高すぎるという場面が頻繁に出てくる。その点スズキの250は6速でなおかつクロスミッションなのでパワー不足を補っている。コストの問題なんだろうがVTRも6速にしてほしかった。

 

ハンドリング 車体

この個体、過走行なだけでなく事故車でピポット付近に歪みがあり、極低速だと妙にフラフラしたり、右と左で寝かせた時のハンドルの切れ方が違ったりする。またタイヤも後ろが真ん中ばかり減ってたり、前後で銘柄が違ったりしているので、本来のハンドリングとはおそらくほど遠い状態である。なので以下はあくまでそういう車体であるという前提で読んでいただきたい。

交差点を曲がる程度の低速では、寝かすと割とスパッと舵角がつくが、ある程度のところでちゃんと収まるので、曲がっている間ずっとイン側の手で押さなきゃいけないとか、立ちが強くて寝てくれないというようなことはない。素直なハンドリングである。

寝かし込みは割と手応えがある感じで、僕の乗ってるMT-07の方がずっと軽い。ただこのくらいの方が常識的な速度で走る分には安定感があって乗りやすいし、ジムカーナーで人気があるところを見るとタイヤのチョイスや乗り方次第で素早く寝かすこともできるんだと思う。

高速域でのコーナーリングは寝かせても舵角があまりつかず、どこまでも寝てしまおうとする感じで不安感がある。またフロントの接地感があまりないので深く寝かすことができず、そのためアクセルを開けると外にはらんでしまう。まあこれは事故車だからということで間違いないと思う。この操安じゃ社内のテストを通過しないはずだ。

下の筑波でのレースでVTRが1分8秒台というベストラップでぶっちぎり優勝してるが、ベースの良い車体じゃなけりゃどんなにいじっても1分8秒台は出せない。本調子なら高速でのコーナーリングも安定しているはずだ。

ちなみに上の動画のVTRはSPADAのミッションが入ってるらしい。SPADAのミッションはかなりクロスしてるからサーキット走るにはもってこいだろう。

 

ちょっと話がそれるが、VTRのフレームはピポット部分を持たないピポットレスフレームというもので、クランクケースの後端でスイングアームを支持する形になってる。

ホンダ公式(https://www.honda.co.jp/VTR/performance/)より

ホンダは90年代末から2000年くらいにかけて市販車のみならずレースでもかなり積極的にこのフレームを取り入れていた。ホンダはエンジンパワーがあるからストレートでは速いんだけど、そのパワーを受け止めるためにフレーム剛性を高めると曲がらなくなるというジレンマがあって、それを解決するためにこの形のフレームを選んだようだ(なおオリジナルはDUCATI)。結局レースではあまり結果を残せなかったんだけど、市販車においては部品点数が減らせてコストダウンになるし、適度にしなってよく曲がるしでなかなか好評だったみたい。実際に昔乗ってたアルミツインスパーのSPADAと比べると乗り味が柔らかい気がする。まあエンジン降ろす時に面倒くさいっていう欠点はあるんだけど。

あとこの頃からサスはガッチリさせてフレームはしならせるっていう車体設計がメジャーになってきた気がする。例えばSPADAとVTRを比較すると、SPADAはフレーム剛性は高いがフロントフォークは39mmとやや細く剛性が低い。逆にVTRはフレームは細い鉄棒を組み合わせたトラス型で剛性が低いものの、フォークは41mmとかなり太いものを使っている。最近ではジクサー150みたいな軽量、ローパワーなバイクにまで41mmのフォークが使われててびっくりした。思うに90年代末くらいからフレームの解析技術が進んで、車体全体を使って曲がるような設計ができるようになったんじゃないだろうか。まああくまで推測だけど。

 

話をVTRに戻そう。

サスは初期の動きが渋くてちょっとバタバタしてるが、これは経年劣化のせいだろう。乗り心地がちょっと悪いのを我慢すれば、別にふわついたりしないので特に問題はない。

 

ブレーキはまあ及第点というところ。自分で買って乗るとしたらパッドくらいは交換したい。できればラジアルマスターなんかも入れてコントロール性も良くしたいかな。

 

まとめ

VTシリーズってSPADAとVT250FEしか乗ったことないんだけど、少なくともその2台に関してはエンジンはいいけど、ハンドリングに関してはちょっと無機質で面白みがないなと思ってた。万人に乗りやすいっていうのはそういうことなのかなと思ってたんだけど、VTRは本調子だったらハンドリングもかなり面白いバイクなんじゃないかと思う。バイクは趣味の乗り物だから、乗りやすいだけじゃなくて面白いってのは非常に大切なことだ。しかし車体がいいだけにミッションが5速なのは本当に残念。まあかなり低速寄りにトルクを振ってるから、峠をガンガン攻めるとかじゃなけりゃ問題ないんだけど。自分で買ったらSPADAのミッション入れちゃうかな。

 

ディテール

1982年の登場から基本設計の変更なしに実に35年も使われてきた90°Vツインエンジン。耐久性抜群で、この個体もオーバーホールなしに10万キロ超えてる。

 

41mmと太いフォーク。

太ももによくフィットするタンク。

 

シートはさほど前下がりじゃない。

 

ハンドルはちょっとアップしたものになってる。マイチェン後はノーマルでもこの位の高さ。

 

初期型はタコメーターがない。DUCATIモンスターのオマージュと言えなくもないが、多分コストの問題だろう。評判が悪かったのか、マイチェン後はタコメーターが装備されている。

 

リアサスはリンクレス。

 

FIになってからの尻下がりデザインより初期型のこのデザインの方が好き。

 

OVERの何用か分からないサイレンサーが溶接でついてる。おかげで弾けるようなパルス感を感じることができる(ちょっとうるさい)。

 

ホンダの開発陣曰く「モンスターとはたまたま似てしまっただけ」とのことだが、さすがにその言い訳は厳しくないですかね。