バイクインプレ日記

サーキットは安全なのか

痛ましい事故が起こった。

 

 

情報によると30台ほどが走行していたとのことで、ネットでは台数が多すぎたのではないかとの声もあるようだ。確かに全長1.2kmのミニバイクコースよりやや大きい程度のサーキットにしては台数が多いと思うし、多重クラッシュなので台数が少なければ起こる確率は相対的に小さかったとも思う。またこの走行会について調べてみると主催者はメーカーや販売店、メディアなどではなく同好の士の集まりのようで、安全配慮が不十分だった可能性もあるかもしれない。だが、それは本質的な問題ではない気がする。そもそもの話、サーキット走行は危険が伴うのだ。

(※以下は主にサーキット走行未経験者および走行会を数回体験した程度の初心者を想定して書いています)

 

自身の経験

2006年頃だったと思うが、富士スピードウェイ(FSW)のショートコースで走行会があり、僕はミニバイク(4スト125ccならびに2スト80ccまで)のカテゴリーにKSRⅡでエントリーした。当時ホームにしてたミニバイクコースでは週1くらいのペースで走っていたし、筑波の(ファミリー走行だが)ライセンスも一応持っており、それなりにサーキット走行の経験も積んだつもりだった。FSWショートコースもYZF-R1で2回ほど走ったことがあったのでさほど緊張もせずに走り出した。しかし走り出してすぐにどうにも普段と勝手が違うことに気づいた。当然だがR1とKSRではパワーも車重も違う。R1で走った時と同じような感覚で走るとバイクが軽すぎてどうにもコーナーでバイクが安定しない。パワーがないのでアクセルを開けてもトラクションがかからない。FSWショートコースは小規模のサーキットとは言え四輪も走れる幅があり、ミニバイクコースに比べればずっと広い。広いコースを小さいバイクで走るちぐはぐさに慣れず、ジタバタしているうちに1コーナーに入ったところで後方から何か音がしたような気がした。その直後何かが僕のバイクに衝突した。何が起きたか分からないうちにバイクがスリップしその後ハイサイドで体が路面に投げ出された。どのような形で投げ出されたのかは分かりようもないが、後ろでんぐり返しのように転がって思わず「グエッ」と声が出たのは覚えている。呆然として立ち上がろうとするが地面が揺れるような感じがしてうまく立てない。脳震盪を起こしたようだ。周りを見渡すと僕のKSRとNSR50が転がっていた。どうやらアウトからクリッピングにつこうとした僕のバイクに、後ろからインをつこうとしたNSRが驚いて握りゴケし、滑って僕に衝突したようだ。

結局走行会は赤旗中断、僕は救急車で病院に運ばれた。幸い大きな怪我はなかったが2、3日はなんとなく頭がぼんやりして調子が悪かった。

今思えばR1と同じ感覚でラインどりしたのがまずかったとは思う。大きなコースを軽量なバイクで走るのだからもっとインベタに近いラインで小さく回れば良かったのだ。そうすればラインが交錯することもなかったろう。

その後、誘われて筑波でのミニバイクレースなどにも出たが、この出来事がトラウマになって全く楽しめなかった。

 

サーキットの危険性

メディアなどでこんな話を聞いたり目にしたりしたことはないだろうか。「サーキットはいきなり車が飛び出してくるような不測の事態が起きないから公道より安全」。メディアもモータースポーツの裾野を広げたいからこういうことを言うのは分かる。それがいずれ自らの利益になって返ってくる可能性があるわけだしそれは当然だ。だがこうした言説は本当に正しいのだろうか。

確かに公道に比べてサーキットはアクシデンタルなことは起きにくいかもしれない。だが言うまでもないことだがサーキットは速度域が公道に比べればはるかに高い。何らかのアクシデントが起きてしまえばその結果は公道より重大なものになる可能性もあるのだ。

サーキットで最も重大な事故になりやすいのが他車が絡んだ場合である。サーキットにおける単独でのスリップダウンで大怪我をすることはまずないし、万が一ハイサイドになっても初心者レベルの速度域ならそこまで大きく飛ばされることはない。しかし他車が絡んだ場合はたとえ速度域が低くとも重大な結果を招くことがある。

公道には厳密な交通ルールがあるが、サーキットにそうしたものはない(フラッグルールはあるが、あれはあくまでアクシデントが起きた後のルールである)。一応抜く際のマナー的なものはあるがルールとして定めらているものではない。公道よりはるかに広い道幅を縦横無尽にラインどりしてもマナー違反にはなってもルール違反ではないのだ。その結果、僕のように他車のラインと交錯して衝突することも多々ある。

また特に走行会に特有の危険もある。それは技量が異なるライダーが性能の異なるバイクに乗って同時に走ることだ。レースであれば技量やバイクの性能はある程度同じレベルに収まっているが、走行会だとクラス分けがされていてもあくまで自己申告であることが多い。また排気量のくくりも250cc以上、以下程度の大雑把な区分であることが多い。その結果直線でハイパワーのバイクに速度差100km/h以上で抜かれたり、軽量バイクとビッグバイクでブレーキングポイントが50m以上違うなどということが起こる。こうした状況が追突、接触を生む要因となる。そしてそのダメージは大変甚大なものになりやすい。

和気あいあいを売りにしたような走行会でも実際に走ってみるとかなり殺伐とした空気を感じることもある。サーキットはそもそも速く走るための場所であるし、速く走った結果アドレナリンが分泌されまくって闘争心を掻き立てられることもある。それによってレースではない走行会であっても危険な追い抜き、インへの強引な突っ込みなどはしばしば起こる。高い参加費を払って走ってるわけだし、前に遅いバイクがいて自分のペースで走れなければストレスもたまるからなおさらだ。これもサーキットならではの危険性と言えるだろう。

 

接触、追突などは公道では「あってはならないこと」だ。だがサーキットではそれは「あっても仕方ないこと」なのだ。サーキットとはそういう場所なのだ。

そういったリスクを認識せず安易にサーキットを走ることはやはり危険だと思う。

 

サーキットを安全に走るために

それでも一度はサーキットを走ってみたいという方もいるだろう。そんな方のために安全にサーキット走行できるよう押さえておくべきポイントを記したい。

 

メーカー、大手用品店、メディア主催の走行会に参加する

メーカーやメディアなどが主催する走行会で重大な事故が起こればブランドイメージが棄損する。そのためこうした主催者は安全にはとても力を入れる。サーキット初心者はまずはこうした走行会から参加するのがいいだろう。

 

小規模サーキットから始める

鈴鹿や茂木、富士など大規模サーキットはトップスピードが尋常じゃなく速い。そのためストレートからコーナーに入る際のブレーキングが非常に難しい。過去に茂木の走行会でストレートからノーブレーキでコースアウトしタイヤバリアに激突するという死亡事故があった。これはおそらく経験したことないスピード(ストレートエンドでおそらく200キロ以上出てる)に体が硬直してブレーキがかけられなかったのだろう。サーキット慣れしてない人はまずトップスピードがそこまで出せない小規模サーキットから始めるのがいいと思う。関東近郊だと

筑波コース1000

FSWショートコース

茂原ツインサーキット

スポーツランド山梨

日光サーキット

那須モータースポーツランド

あたりのコース全長1000m程度のところから始めるのがいいだろう。

 

安全装備は上質なものを

フルフェイス、革ツナギ、レーシンググローブ、レーシングブーツはレギュレーションで決められているので当然だが、それぞれの質にもこだわりたい。ヘルメットは必ずスネル規格のものを、ツナギ、グローブ、ブーツもダイネーゼやアルパインスターなど有名メーカーのものを選ぼう。

 

•  エアバッグを使おう

最近はサーキットでも着用する人が増えているようだが、着るタイプのエアバッグを使おう。有名メーカーの革ツナギだと最初から機能としてついているものもあるようだが、ツナギの上から着るタイプでも十分だ。アルパインスターなどのように加速センサーで作動するものと、ヒットエアのようにワイヤーで作動するものがあるがどちらでもいい。ハイサイド時のダメージ軽減に非常に有効だ。

 

レコードラインを大きく逸脱しない

サーキットにはレコードラインと呼ばれるそこを走れば最もタイムが出やすいラインがある。多くのライダーがこのラインを走るので、そこから大きく逸脱しなければ他車と接触する可能性は小さくなる。

 

後続に譲らない

後続車に悪いと思ってラインを急に変えたり減速すると追突される危険がある。上手い人はどこかで勝手に抜いてくれると信じて自分のペース、ラインどりを守ろう。

 

周囲に気を配る

わざわざ後方を振り向いたりしなくてもいいが、意識の上で前だけでなく横や後ろにも注意を向けよう。意識するだけでも違うはずだ。

 

最初の2、3周は6割、その後も8割で走る

走り初めはスピードに目がついていかない。走行会であれば先導がついてくれることも多いが、そうでなくても最初は全力の6割程度、その後も8割程度で余裕を持って走ろう。8割程度で走っても公道で走るよりはずっと速いはずだ。

 

BSMを使う

これは番外編のようなものだが、最近バイク用のBSM(ブラインドスポットモニター)が発売された。BSMとは死角になる後方や側方に他車が接近していることを知らせる装置である。車のサイドミラーに小さいウインカーのようなライトがついているのを見たことがある人も多いと思うがあれである。先ほど書いた通りサーキット走行でも周囲に注意を払うことは大切だ。しかしサーキットでは転倒時の飛散防止のためにバックミラーを外さなければならない。四輪ではF1ですらサイドミラーがついているというのに。後方や側方の確認は非常に重要であるにも関わらずバイクにおいてはそれが軽視されてる気がする。そこでBSMを使ったらどうだろう。実際に自分が使ったことがあるわけではないので断定的なことは言えないが、それなりに有効なのではないだろうか。少なくともバックミラーがない状態よりはよっぽどマシなはずだ。仮にこれから僕がサーキット走行に復活するなら是非とも使いたいと思う。

 

思い切って楽しめ

今まで言ってきたことと違うじゃないかと思う方もいるかもしれないが、やるべきことはやったうえであとはは全力で楽しんで走った方がいい。オドオドしながら走ってると楽しくないばかりかラインが定まらなかったりして危険だ。コースに出たら頭はクールに心はホットに楽しもう。