バイクインプレ日記

CB400SFシリーズを振り返る

先日Twitter見てたらこんなまとめが流れてきて、

 

まあ噂はされてたけど、ついに来る時が来たなと。個人的に最初期型NC31を3台乗ったことでもあるし(ヘッダー画像はその1台)、自分の体験なんかも交えながらCB400SFについてちょっと振り返ってみようと思う。

 

 

初代CB400SFが誕生した背景には、知ってる人なら言うまでもないけど、ゼファーの大ヒットがある。ゼファー誕生の前、1980年代後半バブル真っただ中の日本市場はレプリカブームの最盛期で、今じゃ考えられないけどホンダのNSR250なんか87年から90年まで毎年フルモデルチェンジしてた。そんな熾烈な性能争いの中、何を考えたのかカワサキが空冷2バルブ、2本サス、バーハンドルにカウルなし丸目一灯という売れそうもないバイクを出してきた。ところがこれが大方の予想に反して大ヒット。各メーカーもあわてて追従してきたんだけど、その対抗馬の一番手がCB400SFで、その後XJR、インパルスと続くことになる。

話はちょっとそれるけど、ゼファーが出た1989年にはホンダはCB-1、スズキはバンディットというネイキッドを出している。どちらもレプリカとは方向性が大きく異なるもののゼファーほどには懐古的じゃなくて、性能面でも妥協していない感じだった。良くも悪くもゼファーほど突き抜けられなかったんだね。結果としてセールス面ではそれがマイナスに響いてゼファーの後塵を拝することになる。とは言えカワサキ以外も今までと異なるアプローチをしてきたってことは、業界全体にこのままの性能至上主義じゃいずれユーザーがついてこれなくなるっていう危機感はあったんだろう。

 

話をCB400SFに戻す。ゼファーに遅れること3年、1992年の4月に初代CB400SFが発売される。当初「プロジェクトビッグワン」として1991年の東京モーターショーでCB1000SFのコンセプトモデルが展示されて、それが最初に発売されるんだろうと思ってたら400の方が先だった。ちなみに「ビッグワン」って英語のスラングだと「でかいうんこ」という意味があるらしいんだが、開発陣がそれを知ったのは発表しちゃった後だったのででそのまま通したとか。まあ普通の意味では「でかいヤツ」だからね。

CB-1の失敗から徹底的にゼファーを研究した感じで、バーハンドルに2本サスというスタイルながらタンクにボリュームを持たせてモダンなデザインに仕上げたり、フライホイールを重くして低中回転ではアクセルに過敏にレスポンスしない穏やかさがありつつ高回転での伸びを両立したり性能もデザインも妥協のない作りだった。

で、肝心の乗り味だけど、詳しいことは下のインプレを見ていただきたいが、

エンジンは確かに穏やかさとシャープさを両立させてて流石ホンダって感じだったんだけど、ハンドリングに関してはちょっと切れ込み気味であんまり好きになれなかったな。

話がちょっと脱線するけど、ホンダのバイクは、寝かすとそれに合わせてハンドルが切れてくるっていうよりハンドルが先に切れてその切れ角に合うところまで寝かす(っていうかそこまでしか寝かせられない)感じのものが多い気がする。寝かさず曲がれるっていう言い方もできるのかもしれないけど、人間主導じゃなくて機械主導な感じがして、面白いかって言われるとちょっと微妙。他社でもそういうハンドリングのバイクはあるけど、ホンダはそういうハンドリングの割合が高い気がする。おそらく狙ってそういう味付けにしてるんだと思う。ところがこれがレーサーレプリカ、今ならスーパースポーツだとちょっと話が変わって、比較的人間主導的なバイクが増えるんだよね。この辺も多分ライダーがバイクに望むものによって変えてるんだと思う。

さて、そんなエンジンが特徴的だった最初期CB400SFだけど、94年になるとマイナーチェンジして、低回転での穏やかさをあっさり捨ててしまう。あえて重くしていたフライホイールを軽量化し、さらに点火タイミングやキャブセッティングのみならずピストン形状なんかも見直して低回転からビュンビュン回るようになった。友達が持ってたからちょっとだけ乗せてもらったことがあるんだけど、全域でアクセルレスポンスが別物っていうくらい良くなってた。フライホイールが軽くなってエンジンのジャイロ効果が減ったせいか、寝かしこみも少し軽くなってた気がする。初期型の穏やかさを捨てちゃうのはもったいない気がしたけど、人気が出るとより分かりやすい高性能を求める人が増えるんだろうね。XJR400もXJR400Rになってエンジンも車体も「走り」の方向に振ってきたし。まあマーケティングの結果だ。

 

そうやって高性能を求めた先にあるのは、そうレースである。CB400SFが出てしばらくしたころからNK-4という鉄フレームの400ccクラスのレースが各地で行われるようになった。雑誌などのメディアでおなじみの梨本圭さんや丸山浩さんはこのカテゴリーを主戦場としていた。余談だけど、梨本圭さんのお父さんは亮さんといって、CB400SFの開発スタッフの一人なんだよね。圭さん主催の梨本塾という走行会で一緒に走ったことがあるんだけど、当時還暦を過ぎていたにも関わらずかなり速かったのを覚えてる。圭さんも走りのアドバイスをくれたりヤンチャな見た目より気さくな方だった。

話を戻して、このクラスは改造範囲が狭くてエンジン本体は触っちゃいけないし、キャブレターにもかなり制限があったと記憶してる。そうすると各チームほんの僅かな重箱の隅をつつくようなチューニングをしてストレートでの最高速の1キロ2キロを競うみたいなことになるんだけど、そうなるとノウハウってものが重要になってくる。で、売れてる車両が最もノウハウが集まるので、どのサーキットでもほぼCB400SF(NC31)のワンメイクレース状態(こんな感じ)。ベース車両としてはFZ400なんかはエンジンも足回りもポテンシャルは高かったんじゃないかという気がするんだけど、発売された時はもうNKレースが下火になってたからね。で、このNK-4レーサーをイメージしたver.Rっていうのが出るんだけど、

ホンダのプレスリリース(https://www.honda.co.jp/news/1995/2950220.html)より

これが売れなかった。実際のNK-4レーサーってこんな感じでもっとハンドルが低くてそれに合わせてカウル(ゼッケンプレート)の位置も低いのよ。

https://happy.ap.teacup.com/hondainlinefour/19.html

それに対してこいつはカウル風ヘッドライトが通常のライトと同じ位置にあるもんだから変に間延びして見える。結局みんなライトを丸目にしちゃうから、そんなら丸目のまま売った方がいいってんでver.Sっていうのが出て、これはすごく売れた。無印CB400SFと併売されてたんだけど、売れてたのはほぼver.Sだった。ちなみにver.Sは試乗会でちょっとだけ乗ったことがある。狭い駐車場での試乗会だったから低速でのハンドリングくらいしか分からなかったんだけど、無印にあったような切れ込みが軽減されてて乗りやすかった記憶がある。ハンドルが少し低くて無印よりポジションのバランスが良かったこと、シートの前下がりが軽減していたことに加えて、無印がキャスター角27度15分、トレール109mmなのに対してver.S(およびver.R)はキャスター角26度45分、トレール104mmと変わってて、このあたりがハンドリングの違いの要因なんじゃないかと思う。

 

僕もNK-4レーサーに憧れてこんなの作って筑波走ったりしたんだけど、

タイム的には13秒台がギリギリで、雰囲気だけという感じだった。まあ一番ダメなのはライダーの腕なんだけど。ちなみに筑波で行われたN-NK(NK-4で最も改造範囲の狭いカテゴリー)のレコードは1分4秒台とのこと。やっぱ腕だ。

 

その後NC31はちょこちょこマイナーチェンジしながら1999年にフルモデルチェンジしてNC39になる。

ホンダのプレスリリース(https://www.honda.co.jp/news/1999/2990222.html)より

NC39を最初に見た印象はずいぶん小ぶりになったなあというものだった。寸法で言うとNC31が2080mm、NC39が2050mmとそんなに変わらないんだけど、数字以上にコンパクトに感じたのを覚えてる。NC39は教習所で行われた試乗会で乗ったことがあるんだけど、NC31とは比べものにならない乗りやすさに驚いたもんだ。ハンドリングは低速からナチュラルだし、Hyper-VTECのおかげで400cc4気筒としては異例に低回転でのアクセルレスポンスが良く、今振り返っても非常に完成度の高いバイクだったと思う。唯一気になったのはメーターのステーがトップブリッジについてるんじゃなくてライトステーから伸びてる点。まあ些細なことなんだけど、伝統的な形に慣れた身には奇異に映ったんだよね。

NC39はその後VTECⅡ、VTECⅢとマイナーチェンジしていくんだけど、VTECⅢのカチ上げテールは受け付けなかったなあ。メーカーがヤン車作ってどうすんだよっていう。もっとも当時の2chでそういうことを書いたら、「このテールの良さが分からないやつがバイク作っても絶対売れない」みたいに散々叩かれてしまった。まあ僕の感性が古かったんだろうね。

 

2007年にはフルモデルチェンジしてNC42「VTEC Revo」となる。

ホンダのプレスリリース(https://www.honda.co.jp/news/2007/2071218-cb400sf.html)より

NC42はちょっと前にレンタルバイクで乗ってインプレを書いた。

最初はキャブからインジェクションになった程度の違いだろうと思ってたんだけど、ハンドリングもNC39とはけっこう違った。なんというか、NC39と比べると若干切れ込み気味になった気がする。まあNC31ほどじゃないんだけど、NC39の乗りやすさを知ってるからちょっとがっかりした。調べてみると車体も少し変わってるようで、NC39がキャスター角25度15分、トレール89mmなのに対してNC42はキャスター25度05分、トレール90mmとほんのちょっとだけ違いがある。またホイールベースもNC42の方が5mmだけ長い。まあ売れたし、大きなモデルチェンジもなしに15年間(!)も販売されたんだからこれが正解だったんだろう。

 

ところでCB400SFは教習車として使われてるのはご存じだと思うけど、今教習所で使われてるCB400SFは実はNC39またはNC42とNC31のハイブリッドになってるものが多い。近所の教習所のやつもそういう仕様。具体的に言うとホイール、ブレーキがNC31、エンジンはNC31だったりNC39だったりNC42だったり。NC39またはNC42のエンジンでもHyper-VTECはオミットしてあるものとそうでないものがあるらしい(この辺未確認)。

 

振り返るとCB400SFの歴史って日本経済衰退の歴史、つまり失われた30年と重なるんだよね。この30年間バイクを取り巻く環境は大きく変わった。排ガスや音量規制が厳しくなったり、コンプラ的問題で峠ではっちゃけて走るのが難しくなったり、娯楽が多様化して若者がバイクに興味を示さなくなったり。そしてなにより日本が貧しくなった。今言ったことと矛盾するかもしれないけど、いくら娯楽が多様化しても金さえあればまだまだバイクに興味を示す若者はいると思うんだよね。でも税込み90万円もするモノ今の大学生や社会人なりたての子が買えますか?そんなの買えるのおじさん(それも一部のそれなりに順調に人生を送ってる)だけだよ。ライダーの平均年齢が50オーバーらしいけど、まあそういうことなんだよな。

デビュー当時はスタンダードだったバイクがやがて高嶺の花になりそして消えていく。なにか示唆的な感じがするよね。